HD内から発掘!
試供品の、小さな袋に入った粉コーヒー。
とても懐かしくて、ほろ苦く甘い思い出。
お隣の男の子の家に遊びに行ったとき、おばさんが出してくれたコーヒー牛乳。
甘くて、いい香りで、初めての味で。
その日、母に「コーヒー飲みたい」とせがんで、一笑に付された。
なんだって子どもの癖にそんなの飲みたがるのかしら、と彼女は笑う。
喉の渇きを潤すなら、水でもお茶でもいいじゃないか。
父にそう言われ、我が家にはコーヒーの入る隙間はないんだと諦めた。
町じゅうが赤と緑と、キラキラ輝く電飾に彩られる季節。
コーヒーのこともほとんど忘れかけたある日、母につれられて、大きなデパートに行った。
買い物が終るのをベンチでぼんやり待っていたら、
赤い服を着たおじさんが、道行く人になにか配っているのが見えた。
じっと見ていると、笑顔で私にも渡してくれた。
「おうちの人にね」
それがコーヒーだということは、幼い私にもわかる。
ただ、彼の言葉が少し悲しくて、そして母の笑いを思い出した。
ぼんやり座っていると、買い物を終えた母が私を呼ぶ。
隠すように、袋をポケットにいれた。
次の週末、お隣の男の子と一緒にタイムカプセルを埋めた。
彼は何も言わずに付き合ってくれた。
小さな缶の中にに、しっかり包まれた二つの包みが寄り添っている。
彼と、私の。
15年経った。
大人になった私は、大人になった「お隣の男の子」と一緒に立っている。
目の前にはタイムカプセル。
中から出てくる懐かしいたからものたちに、時を忘れて二人ではしゃぐ。
私の包みの最後は、小さな袋に入った粉コーヒーだった。
すっかり色も変わって、あちこち染みもできている。
「それは何?」と「お隣の男の子」が聞いてくる。
「わたしたちの馴れ初めの品だよ」と笑いながら答える。
彼きょとんとした顔をした。
「そろそろ帰ろう。温かいコーヒーを入れるから。ね、あなた」
タイムカプセルを埋めた後、お隣の男の子と約束をした。
その約束は守られて、彼は今、私の永遠の「お隣の男の子」…永遠の伴侶だ。
今でも思い出す。
あのコーヒー牛乳、クリスマスのイルミネーション、試供品の、小さな袋に入った粉コーヒー。
飲めなかったコーヒー。
15年前の私から夢を。
15年経った私から幸せを、コーヒーとともに。

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