2005年12月3日土曜日

お題はコーヒー

なにかに投稿した小説?
HD内から発掘!


試供品の、小さな袋に入った粉コーヒー。
とても懐かしくて、ほろ苦く甘い思い出。

お隣の男の子の家に遊びに行ったとき、おばさんが出してくれたコーヒー牛乳。
甘くて、いい香りで、初めての味で。
その日、母に「コーヒー飲みたい」とせがんで、一笑に付された。
なんだって子どもの癖にそんなの飲みたがるのかしら、と彼女は笑う。
喉の渇きを潤すなら、水でもお茶でもいいじゃないか。
父にそう言われ、我が家にはコーヒーの入る隙間はないんだと諦めた。

町じゅうが赤と緑と、キラキラ輝く電飾に彩られる季節。
コーヒーのこともほとんど忘れかけたある日、母につれられて、大きなデパートに行った。
買い物が終るのをベンチでぼんやり待っていたら、
赤い服を着たおじさんが、道行く人になにか配っているのが見えた。
じっと見ていると、笑顔で私にも渡してくれた。
「おうちの人にね」

それがコーヒーだということは、幼い私にもわかる。
ただ、彼の言葉が少し悲しくて、そして母の笑いを思い出した。
ぼんやり座っていると、買い物を終えた母が私を呼ぶ。
隠すように、袋をポケットにいれた。

次の週末、お隣の男の子と一緒にタイムカプセルを埋めた。
彼は何も言わずに付き合ってくれた。
小さな缶の中にに、しっかり包まれた二つの包みが寄り添っている。
彼と、私の。

15年経った。
大人になった私は、大人になった「お隣の男の子」と一緒に立っている。
目の前にはタイムカプセル。
中から出てくる懐かしいたからものたちに、時を忘れて二人ではしゃぐ。
私の包みの最後は、小さな袋に入った粉コーヒーだった。
すっかり色も変わって、あちこち染みもできている。
「それは何?」と「お隣の男の子」が聞いてくる。
「わたしたちの馴れ初めの品だよ」と笑いながら答える。
彼きょとんとした顔をした。
「そろそろ帰ろう。温かいコーヒーを入れるから。ね、あなた」

タイムカプセルを埋めた後、お隣の男の子と約束をした。
その約束は守られて、彼は今、私の永遠の「お隣の男の子」…永遠の伴侶だ。
今でも思い出す。
あのコーヒー牛乳、クリスマスのイルミネーション、試供品の、小さな袋に入った粉コーヒー。
飲めなかったコーヒー。

15年前の私から夢を。
15年経った私から幸せを、コーヒーとともに。